ご存じですか?2023年4月1日から遺伝子組み換え食品の表示ルールが変わります。新たな表示ルールは、より正確な情報を消費者へ提供する一方、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の表示が激減するなどの問題を抱えています。現在の表示ルールから、どのように変わるのかを見ていきましょう。
組み換え大豆・トウモロコシの輸入増、農水省が制度導入
遺伝子組み換え表示制度は2001年4月に始まりました。1990年代後半になると、遺伝子を組み換えたトウモロコシや大豆の輸入が増加。消費者間で「安全なの?」という不安が出てきたことを受けて、農林水産省(当時の所管官庁)が表示制度を導入した経緯があります。
現行は「義務表示」と「任意表示」の2分類
新たな表示ルールの説明に入る前に、まずは現在の表示制度を確認しましょう。対象食品は農産物8種と、これを原材料に用いた加工食品33群。農産物8種は、大豆・トウモロコシ・バレイショ・菜種・綿実・甜菜・パパイヤ・アルファルファです。
表示制度は「義務表示」と「任意表示」に分かれます。義務表示は、適正に記載しなければ法違反に問われます。一方、任意表示は、事業者の判断で記載してもしなくても問題になりません。
義務表示となるのは、次の3つのパターンです。一つ目は、分別生産流通管理によって区分された遺伝子組み換え食品。この場合、「大豆(遺伝子組み換え)」といった表示が義務づけられます。分別生産流通管理とは、生産・流通・加工の各段階で、遺伝子組み換え食品とそうでない食品に分けて管理することを言います。
二つ目は、分別生産流通管理を行わないケース。これでは、遺伝子組み換え食品がどの程度混入しているのかが分かりませんね。三つ目は、分別生産流通管理を行ったものの、遺伝子組み換え食品が「5%を超えて混入」したケース。どちらも、「大豆(遺伝子組み換え不分別)」などと表示しなければなりません。
次に、任意表示の内容を押さえましょう。現在の表示ルールでは、分別生産流通管理を行って遺伝子組み換え食品の混入が「5%以下」の場合、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」、または「遺伝子組み換えでないものを分別」などの任意表示が可能です。
制度改正へ消費者庁の検討会で議論
表示制度が改正された経緯を振り返ります。約10年前に消費者庁が発足し、JAS法・食品衛生法・健康増進法を一元化する作業に着手。その結果、2015年4月に食品表示法が誕生するのですが、作業量が膨大だったため、加工食品の原料原産地表示制度や遺伝子組み換え表示制度などは別途見直すこととしました。
そうした経緯を踏まえ、消費者庁は2017年4月、遺伝子組み換え表示制度を見直すための検討会を設置。消費者の商品選択の観点から、制度の改正が検討されました。
「コーンフレーク」の追加を見送り
検討会では複数の委員が、義務表示の対象品目の拡大を要望しました。しかし、制度上、科学的手法によって遺伝子組み換え食品を検出できることが、対象品目の要件となります。そのため、消費者庁は最新技術を用いて、義務表示の対象外となっている「しょうゆ」「食用油」「コーンフレーク」などについて検証しました。
検証の結果、「コーンフレーク」からはDNAを検出できることが判明。ただし、対象品目に追加するためには、検査機関によって分析結果にばらつきが出ないように、再現性のある検査法が必要です。現時点では検査法が確立していないことから、「コーンフレーク」の追加は先送りとなりました。
ルール厳格化で「不検出」を要件に
このように、表示制度の大枠は現状維持にとどまったのですが、今回の見直しで、任意表示のルールが改善されました。
前述のとおり、現在の表示ルールによると、遺伝子組み換え食品の混入を「5%以下」に抑えた場合には、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の任意表示が可能です。
これに対し、検討会の多数の委員から、「(現在の任意表示は)消費者を誤認させる」という指摘も。遺伝子組み換え食品が数%混入しているにもかかわらず、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」と表示するのは、正確な事実を反映していないという意見です。
検討会では、消費者が誤認しない表示の在り方を議論。最終的に、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の表示を認める条件を見直して、現在の「5%以下の混入」から「不検出」に引き下げることで合意しました。
科学的手法を用いても遺伝子組み換え食品が検出できない場合に限り、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の表示を認めるということです。
「非遺伝子組み換え」表示が激減する!
新たな表示ルールは、正確な情報を消費者へ伝えますが、いくつかの問題点を抱えています。
1点目は、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」と表示された商品が激減すること。特に、輸入原料を使用した場合、分別生産流通管理を行ったとしても、遺伝子組み換え食品が「不検出」になることはほとんどないでしょう。また、国産原料であっても、産地での交配や流通過程での混入により、「不検出」とならないケースも予想されます。
このため、新たな表示ルールの下では、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」と表示できる商品は、ほんの一握りになると言われています。
2点目の問題として、分別生産流通管理に注力する事業者の減少が挙げられます。
これまで多くの事業者は、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」と表示するために、コストをかけて分別生産流通管理を推進してきました。しかし、新たな表示ルールの導入でそうした表示が困難になれば、分別生産流通管理から手を引く事業者が相次ぐ可能性もあります。その結果、遺伝子組み換え食品の流通量が増加しかねないわけです。
新たな表示ルールには、より正確な情報を消費者に伝えるというメリットがあります。その一方で、消費者が商品選択の目安としてきた「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の表示が激減。その上、分別生産流通管理が衰退しかねないという不安も抱えているのです。
懸念される分別生産流通管理の衰退
分別生産流通管理を推進してきた事業者の努力が否定されかねないことについては、消費者庁の検討会でも議論されました。さらに、消費者庁の施策をチェックする消費者委員会の食品表示部会でも、同様の指摘が出ました。
消費者委員会食品表示部会では、「現行のIPハンドリング(分別生産流通管理)は最も安いコストで、遺伝子組み換え農産物が混入する量を最も少なくする方法であり、それが潰れるような改正であってはならない」と懸念する声も。「不検出から5%の間を示す表現については分かりやすくするべき」といった意見も寄せられました。
そうした論点を踏まえ、新たな表示ルールでは、分別生産流通管理によって「5%以下」の混入に抑えた場合の表示方法を規定しました。
この場合、「適切に分別生産流通管理を行っている」旨の任意表示を可能とし、事業者が表示方法を工夫してもかまいません。例えば、「遺伝子組み換え大豆の混入が5%以下になるように管理しています」など、具体的な混入率も合わせて表示できます。
2023年4月1日の施行後は冷静な消費行動を!
ここまで見てきたように、今回の改正により、任意表示は「不検出」と「5%以下の混入」の2段階構成に変更。(1)「不検出」の場合、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」の表示が可能、(2)「5%以下の混入」の場合、「適切に分別生産流通管理を行っている」旨の表示が可能――となります。流通実態を考えると、(2)に該当する商品が大多数を占めるでしょう。
新たな遺伝子組み換え表示制度は、2023年4月1日からスタート。施行後、「遺伝子組み換え食品でない」「非遺伝子組み換え」と表示された商品については、科学的に検出できないレベルで、遺伝子組み換え食品が混入していないと判断できます。これに対し、「適切に分別生産流通管理を行っている」旨を表示した商品については、混入を「5%以下」にコントロールしていると理解してください。 遺伝子組み換え食品を避けたい消費者にとっては、表示ルールがどう変更されるのかを把握することが大切です。施行後に、「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」と表示した商品が売場から消えたとしても、慌てずに、「適切に分別生産流通管理を行っている」旨を表示した商品を選択するなど、冷静な消費行動を心掛けましょう。