日本・EU間で「有機」の相互認証が拡大

20255月から酒類や畜産物なども対象に

2025年5月から、日本とEU諸国との間で、有機JAS認証を取得した酒類、畜産物・畜産物加工食品についても、「有機」「organic」と表示して輸出入することが可能となりました。これにより、“有機日本酒”といった産品の対EU輸出拡大が期待されます。同時に、日本市場にはEUで生産された「有機」とうたう産品が出回るようになり、私たちの選択肢も広がりそうですね。

有機JAS制度も国際ガイドラインに準拠

日本の有機JAS制度は、JAS法に基づいて、第三者機関が有機JASに適合した生産が行われていることを検査する仕組み。認証されると、「有機JASマーク」の使用が認められ、「有機」の表示が可能となります。一方、認証を受けていない場合は「有機」と表示できません。

日本の有機JASも海外諸国・地域と同様に、FAO/WHOのコーデックス委員会が策定したガイドラインに準拠したものです。

具体的に見ると、(1)有機農産物の場合は、堆肥などで土づくりを行い、基本的に化学合成肥料や農薬を使わずに栽培、(2)有機畜産物の場合は、有機農産物の給与、動物医薬品の過剰な使用の制限、動物福祉への配慮による飼養、(3)遺伝子組み換え技術の使用禁止――など、環境負荷を低減した持続可能な生産方式に関する基準を定めています。

有機の相互認証とは?

原則として各国・地域では、それぞれの制度に基づく認証を受けた産品のみを対象に、「有機」の表示を認めています。このため、日本国内の事業者は、輸出先の国・地域の有機認証を取得しなければ、「有機」と表示して輸出することができません。

しかし、有機認証制度を持つ国・地域の間では、2カ国・地域間の協議で合意すれば、有機認証制度の相互認証が可能となります。これは、自国・地域の有機認証と他国・地域の有機認証を同等と認め、相手国・地域の有機認証を受けた食品を自国・地域の有機認証を受けたものとして取り扱うという国家間の取り決めです。

相互認証により、2カ国・地域間の有機に関する同等性を認め、相互に「有機」と表示して輸出入を行うことが可能となります。

米国・EU・カナダ・台湾・イギリス・スイスと相互認証

現在(2025年5月15日時点)のところ、日本と有機に関する同等性について相互承認した国・地域として、米国・EU・カナダ・台湾・イギリス・スイスがあります。

米国、スイスとは、農産物、農産物加工食品、畜産物・畜産物加工食品を対象に相互認証を行っています。イギリスとは農産物と農産物加工食品を対象に、台湾とはこれに酒類を加えて実施。カナダとは農産物、農産物加工食品、畜産物・畜産物加工食品、酒類を対象に実施しています。

また、EU諸国とは、これまで有機農産物と有機農産物加工食品について、相互認証による輸出入が行われてきました。

このように、国・地域によって相互認証の対象範囲は異なります。

EUと農水省・国税庁が協議

前述したとおり、EU諸国とは、これまで農産物と農産物加工食品で相互認証を行ってきましたが、2025年5月18日から、有機JAS認証を取得した酒類、畜産物・畜産物加工食品についても、「有機」と表示してEU諸国へ輸出できるようになりました。

この背景として、2020年7月から日本で有機畜産物の表示規制が開始されたこと、さらに2022年10月から有機酒類が有機JASの対象になったことがあります。

そうした状況を受けて、農林水産省と国税庁はEUと協議を行ってきました。その結果、有機酒類、有機畜産物、有機畜産物を原料とした有機加工食品についても、有機JAS制度に基づき輸出入が可能となりました。

日本・EUのそれぞれの基準に基づく生産

今回スタートしたEU諸国との相互認証の内容を見ていきましょう。

まず、日本からEU諸国への輸出については、農林水産省の有機JAS制度に基づいて、最終的に日本国内で生産・加工され、格付された有機酒類、有機畜産物、有機畜産物を原料とした有機加工食品が対象となります。生産基準は有機加工食品のJAS、有機畜産物のJASに従います。2025年5月18日に発効しました。

次に、EU諸国から日本へ輸入する場合、EUの有機基準に基づいて、最終的にEU加盟国内で生産・加工され、認証された有機酒類、有機畜産物、有機畜産物を原料とした有機加工食品が対象となります。生産基準は「Regulation(EU)2018/848」に従います。こちらは2025年5月16日に発効されました。

有機食品の輸出入が拡大

今回スタートした相互認証により、日本・EU間の有機食品の輸出入については、手数料や手間が軽減され、貿易の拡大が期待されています。

日本からは、例えば、有機認証を受けた日本酒を「有機」と表示して輸出できるようになり、従来よりも輸出量が増えると見込まれています。反対に、日本へはEU諸国の「有機」とうたった酒類や畜産物などが輸入されるようになり、私たちにとっては選択肢が増えるというメリットがあります。

今後、日本市場では国内で生産された有機食品に加え、海外産の有機食品も増加すると予想されています。環境負荷の低減という観点からも、国内外の有機食品に関する動向が注目されています。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。