米国は2025年1月、合成着色料「赤色3号」の使用許可を取り消すと発表しました。これに続いて4月には、石油由来の合成着色料(8種類)の使用を禁止する方針を打ち出しました。米国の動きを受けて、日本政府は今後の対応方針を示しています。今後、日本の食品業界に大きな影響が出るのでしょうか。私たちは、どう受け止めて行動すればよいのでしょうか。
高濃度の「赤色3号」、雄ラットで発がん性

米国は2025年1月15日、「赤色3号」の使用許可を取り消すと発表しました。「赤色3号」は日本でも使用されています。
使用許可の取り消しは、ラット試験によって、高濃度の赤色3号を投与した雄のラットで発がん性が認められたことを受けた措置です。米国食品医薬品局(FDA)は、雄のラットで見られた発がん性は、人では生じないと指摘しています。
しかし、「動物・人でがんを引き起こすと考えられる物質は食品添加物として使用できない」という法的手続きに基づき、「赤色3号」の使用を禁止すると判断したわけです。
子どもの注意欠如・多動性障害に影響?

さらに、米国は同年4月22日、石油由来の合成着色料(8種類)の使用を禁止する方針を発表しました。この中には、日本でも指定添加物として使用される「赤色40号」「黄色4号・5号」「青色1号・2号」「緑色3号」が含まれています。
8種類のうち2種類については、迅速に使用許可を取り消す手続きに入る予定です。残りの6種類については、2026年末までに使用を取りやめる計画とされています。
この背景に、米国保健福祉省のロバート・ケネディ・ジュニア長官が、子どもの注意欠如・多動性障害への影響を懸念していることがあると指摘されています。ただし、石油由来の合成着色料が、子どもにそうした悪影響を与えるという十分な科学的根拠は、今のところ見当たらないと言われています。
日本人の摂取量はADIに対して0.048%
米国が合成着色料の使用禁止を打ち出したことを受けて、日本政府も検討に乗り出しました。食品添加物の規格基準を所管する消費者庁では、すぐに何らかの対応を取ることは不要という見解を示しています。
この理由として、日本人が摂取している合成着色料の量が少ないことがあります。食品添加物の安全性については、1日あたりの摂取量が重視されます。これは、合成着色料であっても天然着色料であっても、また保存料や甘味料であっても、摂り過ぎると健康被害のリスクが生じるためです。言い換えれば、一定の基準量を下回れば、毎日摂取しても健康被害が発生しないという考え方です。
「赤色3号」についてはどうでしょうか。国が実施したマーケットバスケット方式による調査の結果、日本人1人・1日あたりの摂取量は、ADI(1日摂取許容量)に対し、0.048%と推定されています。
ADIとは、生涯にわたって毎日摂取を続けても、健康に悪影響を及ぼさないと推定される1日あたりの摂取量のこと。調査結果を見る限り、日頃の食生活で問題が生じるとは考えられないというのが現状のようです。
すでに大半が天然着色料に転換
日本人の摂取量が微量となっている背景として、従来から日本の消費者が合成着色料を敬遠してきたことが挙げられます。例えば、菓子の場合、かつて合成着色料が使用されてきましたが、現在では、着色料を使用する場合、ほとんどの製品が天然着色料を採用しています。そうした動きは、ほかの食品でも同様です。
視点を変えて、日本国内の着色料の生産状況を見ると、今も国内で合成着色料が製造されているものの、着色料の生産量のほとんどを天然着色料が占めています。これは、前述したように日本の消費者が合成着色料を敬遠してきた結果と言えるでしょう。
そもそも合成着色料の使用量が少ないことから、日本の食品企業の多くは、米国の動きに対し、冷静に受け止めているようです。当然ながら、米国へ輸出している企業では対応が求められますが、影響は限定的とみられています。
医薬品で基準オーバーの事例
米国の動向は食品業界だけなく、医薬品業界も無縁ではありません。厚生労働省は2025年4月18日、都道府県を通して、医薬品の製造販売業者に対し、「赤色3号」の含有量に関する自主点検を要請しました。これは、一部の医薬品で、「赤色3号」の1日あたり最大摂取量が基準を上回っていたためです。
さらに、医薬品の問題を受けて、消費者庁はカプセル・錠剤などの形状をした健康食品のメーカーに対し、製品中の「赤色3号」の含有量を自主点検するよう要請しました。その結果、基準超の製品は見つからなかったと報告しています。
合成着色料を避けたい場合は原材料欄の確認を

合成着色料をめぐる一連の動きを通して、不安に思った方も多いことでしょう。今回お話したように、日本の食品企業が使用する着色料は、そのほとんどが天然着色料です。今のところ、深刻に考える必要はなさそうですね。
合成着色料を含め、着色料を完全に避けたい方は、商品パッケージの原材料欄に必ず物質名が表示されていますので、確認して商品を選ぶようにしましょう。