食品添加物表示制度の見直し、その方向性と問題点

食品添加物を避けたい消費者にとって、頼りになるのが表示。ところが、「人工」「合成」表示の禁止、「無添加」表示の規制などを柱とする新たな食品添加物表示制度へ移行されつつあります。制度見直しの方向性と問題点について解説します。

添加物を避けたい消費者にとって心配な動きも

制度を見直すため、消費者庁は「食品添加物表示制度に関する検討会」を設置。2019年4月から2020年2月まで議論を重ね、検討結果を取りまとめました。

報告書が示した見直しのポイントは次の3点。

(1)「人工」「合成」表示を禁止する。

(2)「無添加」「不使用」表示は消費者を誤認させる場合などに禁止する。

(3)「栄養強化目的で使用した食品添加物」は全ての加工食品に表示する。

消費者庁はこの3点について、可能なものから順次実施。「人工」「合成」表示は既に動き出していますが、残りについては引く続き検討する予定です。

「人工」「合成」表示、2022年3月まで経過措置期間

制度見直しの第1弾として、消費者庁は2020年7月16日、「人工」「合成」表示を禁止する新たな表示ルールを施行。経過措置期間が切れる2022年4月1日以降に製造・輸入された製品については、「人工〇〇」「合成〇〇」といった表示が禁止されます。

現在、食品表示法の食品表示基準で規定しているのは、「人工甘味料、合成甘味料」「合成着色料」「合成保存料」「合成香料」の用語。これらが経過措置期間中に「甘味料」「着色料」「保存料」「香料」に変更されます。

なぜ、「人工」「合成」表示を禁止したのでしょうか。消費者庁の検討会で出た主な考え方を紹介します。

一つ目は、「人工」「合成」表示が、食品添加物に対する消費者の理解を妨げているのではないかという考え方。これは、消費者意向調査の結果、「人工」「合成」を表示した食品添加物を避ける消費者が一定割合いたことを受けたものです。

二つ目は、食品衛生法と整合性を持たせるという考え方。安全性の基準を定める食品衛生法では、食品添加物について天然と化学合成品に差を設けていません。表示も、これと同じようにするべきという意見です。

一方、改正案についてパブリックコメントを募集したところ、国民からは商品選択の観点で、次のような反対意見が多数寄せられました。

「『人工』『合成』の表示がなくなると、ラベルを見て判断することができなくなってしまいます。消費者には商品の詳細を知る権利があるので、改正には反対です」。

「オーガニックや有機野菜、添加物の使用を控えた食品など、なるべく添加物を取らないで暮らすライフスタイルの方が年々増えています。そのため、表示方法を変えないでほしいです」。

安全性の観点からは、「知らない間に身体に害のあるものを食べ続けることに対して、恐怖を感じます。人の身体に入るものには一番慎重になります。きちんと表示すべきです」などの反対意見も。

しかし、最終的に検討会の報告書のとおり、「人工」「合成」表示の禁止を決定。パブリックコメントの結果、変更したのは経過措置期間を設けた点のみ。食品添加物業界や食品業界の要望を色濃く反映させた改正内容と言えるでしょう。

「無添加」表示の行方は?

今回の改正で最大の焦点は、「無添加」「不使用」表示のあり方。これらの表示に対して規定はなく、各メーカーが任意で表示しているのが現状です。

検討会の議論は、主に2点に絞られました。1点目は、「無添加」「不使用」表示を禁止するべきという意見。その理由に、食品添加物と同じような物質(代替品)を使用していながら、「無添加」「不使用」と表示する事例があり、消費者に誤解を与えているという考え方があります。

2点目は、食品添加物を使用せずに製造している事業者に配慮し、一律に表示を禁止するべきではないという考え方。企業努力で「無添加」「不使用」を実現している場合は、表示を認めるべきという意見です。

そうした議論を踏まえて消費者庁は、今年度中に新たな検討の場を設け、「無添加」「不使用」表示のガイドライン作成に乗り出す計画。ガイドラインで、どのような場合に「無添加」「不使用」表示を禁止するのかを明確化します。

つまり、消費者に誤認を与える表示を禁止し、企業努力による「無添加」「不使用」表示は引き続き認める方向です。施行時期など詳細は未定です。

栄養強化の添加、全加工食品に表示の方向

「栄養強化目的で使用した食品添加物の表示」についても、最終結論を得ていません。

栄養強化目的で使用する食品添加物には、ビタミン・ミネラル、アミノ酸などがあります。現在は、原則として表示は不要。ただし、ハムやソーセージ、乾燥スープ、果実飲料などの一部の食品では表示が必要です。表示が必要な食品とそうでない食品が混在し、消費者にとって分かりにくい表示ルールとなっているわけです。

さらに、表示が必要な食品以外では、栄養強化が目的であると主張すれば、別の目的で添加したとしても、表示しなくても済む点も問題視されました。

そうした事情から消費者庁の検討会は、現在の「表示を要しない」という規定を見直して、全ての加工食品に表示することを提言。その一方で、消費者ニーズや事業者負担、表示事項の増加という問題を踏まえて、最終結論を出すべきとしています。

報告書を受けて消費者庁は、まず、「栄養強化目的で使用した食品添加物の表示」について消費者意向調査や事業者負担の実態調査を行う予定です。

消費者の商品選択に役立つ表示ルールを!

今後の焦点は、何といっても「無添加」「不使用」表示のガイドライン作成。その際には、消費者を誤認させる表示を排除しつつも、「無添加」「不使用」で努力している企業への配慮が重要となります。

食品添加物を避けたい消費者にとって、「無添加」「不使用」の表示は最後の拠り所。検討状況に関心を寄せて、消費者の商品選択に役立つ表示ルールになることを期待しましょう。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。