経口補水液の規制

20256月からスポーツドリンクなどへの「経口補水液」表示が禁止に

夏場にスポーツする際に、熱中症対策として思い浮かべるのがスポーツドリンクではないでしょうか?スーパーやコンビニで「経口補水液」と表示した商品を見かけた方も多いことでしょう。しかし、2025年6月から、一般的なスポーツドリンクなどに「経口補水液」と表示することが禁止されます。消費者庁は特別用途食品制度を改正し、2025年6月1日から、国の許可を得ずに「経口補水液」と表示した商品の取り締まりを開始します。経口補水液をめぐる制度改正の経緯について見ていきましょう。

熱中症に効果があるという思い込み

従来、スポーツドリンクなどに「経口補水液」と表示し、広告で熱中症対策をうたう企業が多数ありました。しかし、こうした販売方法はいくつもの問題を抱えていました。

1点目は、一般的なスポーツドリンクなどでは、熱中症や脱水症状に適切に対応できないことがあります。

スポーツや肉体労働を行うと、私たちの体内で熱が発生します。通常ならば、汗をかいて体外へ熱を逃して体温を一定レベルに調節します。しかし、暑い日の日中に屋外で作業をしたり、激しいスポーツを行ったりすると、体内で発生した熱はいつものように体外へ放出しにくくなります。すぐに作業や運動をやめて、涼しい場所に移動すればよいのですが、そのまま続けると熱が溜まって、体温の調節が上手くいかなくなり、体調がおかしくなって熱中症につながります。

また、下痢をすると、腸の働きがおかしくなります。腸内で水分を十分に吸収できずに、体外へ排出されてしまいます。これによって脱水症状が生じます。

このような症状に対応する飲料については、ナトリウム・カリウム・ブドウ糖といった各成分の含有量をはじめ、配合割合や浸透圧が適切に設定されている必要があります。そうでなければ効果が期待できず、症状を悪化させる恐れがあります。

一般的なスポーツドリンクなどの場合、必ずしも適切に商品設計が行われているわけではありません。しかし、表示・広告を信じて熱中症や脱水症状に効果があると思い込み、使用する方も少なくないようです。

日常的に用いるとナトリウムの過剰摂取に

問題の2点目として、熱中症対策を標ぼう・暗示しているスポーツドリンクなどをオレンジジュースやコーラと同じように、日常的に飲む方がいることがあります。

そうした商品はほかの飲料と比べて、ナトリウムやカリウムを多く含んでいます。一時的に使用するだけならばよいのですが、日常的に飲む人も少なくありません。そうすると、ナトリウムやカリウムの過剰摂取につながります。特に、医師からナトリウムやカリウムの摂取を制限するように指導されている方にとっては注意が必要です。

問題の3点目としては、熱中症対策や脱水症状対策をうたうと、健康増進法などの関連法規に抵触する恐れがあります。広告の宣伝文句を信じて使用した結果、期待された効果がなく、症状を悪化させることが懸念されます。

病者用食品に「経口補水液」を追加

そうした事情を踏まえ、消費者庁は特別用途食品制度を改正し、2023年5月19日付で同制度の許可基準型病者用食品に「経口補水液」を追加しました。

特別用途食品制度には、乳児の発育に役立つ「乳児用調製乳」、病者の健康保持に役立つ「低たんぱく質食品」「総合栄養食品」「糖尿病用組み合わせ食品」などがあります。「経口補水液」も病者用食品の1つに位置づけられました。

特別用途食品として国の許可を得た商品には、「経口補水液」の表示とともに、「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態に適している」旨を表示できます。

栄養成分の基準は次のとおり。100gあたりにナトリウムが92mg~138mg、カリウムが59mg~98mg、塩素が106mg~212mg、ブドウ糖が1.00g~2.60g。ナトリウムと糖の比率は1:1~1:3.5で、製品の浸透圧は300mOsm/L以下と定めています。

特別用途食品の「経口補水液」には、表示内容と規格が予め定められている許可基準型病者用食品のほかに、企業の申請を個別に審査し、許可を与える個別評価型病者用食品もあります。

また、個別評価型で許可された商品については、「軽度から中等度の熱中症、過度の発汗による脱水状態の方が水分・電解質の補給・維持をするのに適している」といった表示が見られます。

一般的な飲料と区別して販売

一方、一般的なスポーツドリンクなどで「経口補水液」と表示することが禁止されます。各企業が容器包装を変更するために時間が必要なことから、消費者庁は2025年5月末までを経過措置期間として設定。2025年6月1日以降、許可を受けずに「経口補水液」とうたうと、健康増進法違反として取り締まりの対象となります。

これに加えて、販売方法も制約を受けます。許可を得て販売される経口補水液には、一般的なスポーツドリンクの3~4倍の電解質(ナトリウムやカリウムなど溶けると電気を通す物質)が含まれます。店頭でほかの飲料と並べて陳列すると、日常的に飲む商品と誤解し、購入してしまう恐れがあります。

このため、消費者庁では小売事業者に対し、一般的な飲料と明確に区別して、病者用食品(経口補水液)であることが伝わるように、ポップなどで説明するよう求めています。

日常的な水分補給で使用しないこと

経口補水液は、脱水状態でない方が、日常の水分補給を目的に飲むものではありません。特に、医師からナトリウムやカリウムの摂取を制限するように指示されている方は、必ず医師と相談し、指導に沿って使用するようにしましょう。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。