消費者庁は2025年3月28日、「食品表示期限ガイドライン」を改正し、食品企業に対し、期限表示の設定方法を見直すよう呼びかけました。どのような理由でガイドラインを改正したのでしょうか。改正のポイントは何でしょうか。そして、私たちの食生活にどう影響するのかについて見ていきましょう。
消費期限と賞味期限の違い

「消費期限と賞味期限の違いを理解していますか」と問われると、あなたならどのように答えますか?
恐らく、「消費期限はカップ麺や缶詰など日持ちが長い食品に用いる期限表示であり、消費期限は調理パンや生菓子など日持ちが短い食品に用いる期限表示ですよね」という答えが返ってきそうですね。
もちろん、その通りです。補足すると、消費期限は「安全」に食べることができる期限、賞味期限は「おいしく」食べることができる期限となります。
また、「消費期限は日持ちが5日以内のもの」と答える方も多いと思われます。しかし、これは正確ではありません。消費期限と賞味期限を「5日」で区切る考え方は、現在推奨されていません。
ガイドライン改正の背景とは?

期限表示は、それぞれの企業が独自に設定します。企業によって設定方法が異なり、その結果、同じ種類の食品であっても期限の長さが違ってきます。
各企業では期限表示を設定する際に、国が定めた「食品期限表示設定ガイドライン」に沿って行います。消費者庁はこのガイドラインを改正し、2025年3月28日に公表しました。
ガイドラインを改正した背景には、食品ロス削減の推進があります。食品メーカーの中には、必要以上に期限表示を短く設定するケースがあります。この結果、まだ食べられるのにもかかわらず、捨てられてしまう食品が増えることになります。
必要以上に短めに設定する企業が多い
もう少し詳しく見ていきましょう。本来、食品ごとに期限表示の長さは違ってきますが、例えば、チルド商品について一律に「5日以下」とする企業も散見されます。これは、国が1995年に期限表示を導入した際に、通知で消費期限と賞味期限を「5日」で区分する考え方を示したためです。
その後、国は「5日」を基準とした区分方法を取り消し、2008年からは推奨していません。しかし、企業によっては、従来の考え方を今も引きずっているようです。
さらに、期限表示を必要以上に短めに設定している企業も多数見られます。例えば、缶詰やレトルトパウチ食品は製造工程で加圧加熱殺菌を行うため、微生物によるリスクは生じません。
しかし、缶詰やレトルトパウチ食品にも「安全係数」を用いて、期限表示を必要以上に短く設定しているケースは少なくありません。「安全係数」とは、食品の品質劣化などを考慮して、科学的根拠に基づく本来の期限よりも短めに設定するために用いる「1」未満の数値のこと。
この背景として、食品表示法に基づく食品表示基準Q&Aによって、安全係数について「0.8以上を目安に設定することが望ましい」と説明してきたことがあります。
消費者庁の調査によると、缶詰・レトルトパウチ食品で用いられる安全係数は「0.8~0.99」が約6割、「0.70~0.79」が約2割を占めていました。
「安全係数は1に近づける」を基本に
そこで、消費者庁はガイドラインを見直して、企業がより適切に期限表示を設定できるようにしました。改正ガイドラインは2025年3月28日に公表されました。
最大の改正ポイントは、安全係数に対する考え方を整理した点です。食品ごとの特性に応じた安全係数の設定を企業に求めつつ、原則として「食品の特性等によるが、安全係数は1に近づけること、また、差し引く時間や日数は0に近づけることが望ましい」との考え方を示しました。
これに加え、缶詰やレトルトパウチ食品などについては、安全係数を考慮する必要がないことを明確にしました。
一方、微生物が増殖する可能性のある食品については、安全係数を設定する必要があるとし、安全係数の値は企業が科学的根拠に基づいて設定するよう求めています。
消費者への情報提供を努力義務に
改正ガイドラインには、企業が消費者からの問い合わせに対し、期限表示に関する情報提供を積極的に行うことも盛り込まれました。
きっとあなたも、「うっかりしていて賞味期限が過ぎてしまったけれど、いつまで食べられるのかな?」という疑問を持ったことがあるでしょう。
容器包装の表示どおりに保存していた食品が期限を過ぎてしまい、「いつまで食べられるのか」という問い合わせが寄せられた場合、情報提供することを企業の努力義務としてガイドラインに定めました。今後、企業には、消費者からの問い合わせに対応するための体制の整備が必要となります。
あなたにとっては、食品の購入後、容器包装に記載されている保存方法を確認し、適切に保存することが大切となります。その上で、期限を超過した場合には、企業に食べることが可能な期限を確認し、廃棄量の削減に努めるという取り組みが求められます。