「デジタル遺品」「デジタル終活」という言葉をご存じでしょうか?インターネット通販をはじめとしたデジタル取引の普及に伴って、故人が生前に利用していたサービスをめぐるトラブルが増加しています。家族や周囲の方が困らないように、元気なうちにデジタル終活を進めておくことが大切です。
デジタル遺品とデジタル終活

故人が契約していたインターネット上のサービスや、パソコンやスマートフォンに保有していたデータを「デジタル遺品」と呼びます。例えば、サプリメントの定期購入契約、動画配信のサブスクリプションサービス(サブスク)契約などもその1つ。契約時のアカウントやID・パスワードもデジタル遺品に該当します。
もしも、おばあちゃんが病死した場合、生前に無期限の定期購入契約によって購入していた膝関節のサプリメントは、その後も自宅へ送られ続くことになります。家族の方は足腰が健康なことからサプリメントが不要で、定期購入契約を解約しようとするわけですが、販売会社によっては電話での解約を受け付けていないこともあります。販売サイトのおばあちゃんのマイページにログインして解約を申し出る必要があっても、パソコンのロック解除のパスワードがわからないため、パソコン画面を開くことさえできません。
どうにかパソコン画面を開くことができても、販売サイトのマイページのID・パスワードがわからなければログインができず、解約手続きに入れません。そうした状況が続いている間に、次の商品が届いてしまいます。
このようなトラブルを防ぐために、元気なうちから、パソコン・スマホのロックを解除するためのパスワードや、デジタルサービスのアカウント・ID・パスワードを整理するなど、万一の場合に備えて遺族が困らないように手配しておくことを「デジタル終活」と言います。
デジタル終活をめぐるトラブル事例
インターネット通販やサブスクサービスが急激に普及したこともあり、デジタル終活の重要性があまり認識されていない状況にあります。国民生活センターには、デジタル遺品をめぐるトラブル相談が多数寄せられています。その代表的な事例を見ていきましょう。
80代女性の相談を見ると、女性は夫が亡くなってから、クレジットカードの利用明細書に約1,000円の不明な請求があるのを見つけ、カード会社に問い合わせると、「スマホのセキュリティのサブスクではないか」と言われました。そこでサブスク事業者に問い合わせると、「すぐに解約するためにはIDとパスワードが必要だ」と言われが、把握していないため、困っているそうです。
もう1つ、60代男性の相談を紹介します。男性の兄が亡くなり、生前にネット銀行で口座を開設していたことから、契約先を確認するために、携帯電話会社の店舗でスマホの画面ロックを解除してほしいと依頼しました。しかし、「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と言われ、頭を抱えているようです。
デジタル遺品の問題点とは?
相談事例で見られるように、デジタル遺品の問題点として、故人のパソコンやスマホのパスワードがわからない場合、ロックの解除が困難なことがあります。
パソコンやスマホにはネット上の資産を管理するアプリをはじめ、契約内容の確認メールなどが保存されていることから、遺族がパスワードを知らない場合にはデジタル遺品を確認することもできません。
動画配信サービスなどのサブスク契約の場合は、契約した本人が亡くなったとしても、解約手続きを行わない限り、請求が続きます。契約した本人が亡くなったことを事業者は把握できないため、遺族が解約手続きを行わなければなりません。
また、故人がネット銀行やコード決済サービスを利用していた場合には、財産を相続するために、死亡の事実や相続人が確認できる書類が必要になります。特に、実店舗を持たない事業者の場合には、郵送による必要書類の受け渡しなどで、手続き完了までに時間がかかるという問題もあります。
元気なうちに何をすべきか?

万一の時に備えて、遺族が困らないようにするため、元気なうちにデジタル終活を進めておくことが大切です。では、どのような取り組みが必要なのでしょうか?
まず、遺族が故人のスマホやパソコンのロックを解除するためのパスワードを確認できるようにしておく必要があります。その際、パスワードは適切な管理が求められることから、家族など特定の人だけに伝わるような工夫が求められます。
次に、サブスクなどのオンラインで契約するサービスは、契約書面が紙ではなく、メールで交付されているケースがあり、遺族が簡単に見つけることができません。このため、契約しているサービスとID・パスワードを日頃から整理しておくことが大切です。
また、アップルやグーグル(スマホのソフトウェア提供事業者)では、アカウントの保有者が亡くなった場合に、誰がそのアカウントの情報にアクセスできるようにするのかを設定できるサービスを提供しています。事前に設定しておくことで、遺族が故人のアカウントにアクセスできて、デジタル遺品を確認しやすくなりますので、こうしたサービスの利用も有効です。
安心してネット通販を利用できる準備を
万一の時に備えて、元気なうちにデジタル終活を進めておけば、安心して健康食品の定期購入コースを利用したり、動画配信サービスを利用したりできます。多くの方が終活を行う時代ですが、その一環としてデジタル終活も忘れないようにしましょう。