「免疫」をうたう機能性表示食品、実際の効果は?

最近、よく見かける「免疫機能」をうたった機能性表示食品の広告。「免疫」に働きかけるのだから、インフルエンザや新型コロナウイルスにも効果があるのでは?――そう考える消費者がいても不思議ではありません。そこで、実際の効果について解説します。

飲料、サプリ、ヨーグルトが登場

2015年に機能性表示食品制度がスタートして、これまでに公表された商品は3,500件以上。しかし、「免疫」を表示できる商品は最近になるまで、一つもありませんでした。多数の企業が「免疫」表示にチャレンジしてきたものの、国のガイドライン(基準)をクリアできなかったわけです。

現時点で、「免疫」を表示できる機能性表示食品は11商品を数えます。各社から飲料、サプリメント、ヨーグルトが登場。話題を集めていることから、今後も多くの企業が参入すると予想されます。

「免疫力」とは「女子力のようなもの」

ここからはサイエンスの話が出てきますが、がんばって付いて来てくださいね。

「免疫」とは、体内に入った細菌やウイルスなどから体を守る防御システムのこと。「免疫力の向上」などと言う人もいますが、そもそも「免疫力」とは何でしょう?実は医学界でも定義できずに、「女子力のようなもの」と揶揄する専門家がいるほど曖昧な言葉なのです。

現在までに登場した11商品で可能な表示は、「健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています」。“維持”を飛び越えた「免疫力の向上」「免疫機能の強化」といった表現は、NGになります。

多くの企業がチャレンジに失敗してきた理由

前述したように、過去に多数の企業が「免疫」表示にチャレンジし、失敗してきました。その主な原因は、各社の説明が科学的でなかったためです。

その代表例に、「NK細胞が増加し、免疫力を上げる」といった説明があります。NK細胞とはナチュラルキラー細胞のことで、ガン細胞やウイルス感染細胞などを攻撃します。しかし、NK細胞は多数ある免疫細胞の1つにすぎません。

食品の摂取により、NK細胞だけを活性化したとしても、体全体の免疫機能にどう影響するのかは不明。そうした理由から、各社の届出は“門前払い”となってきたわけです。

司令塔に働きかけるというメカニズム

では、最近になって「免疫」を表示できる機能性表示食品が相次いで登場したのは、なぜでしょう?

結論を言うと、人の体内での働き方(メカニズム)が従来のものと大きく異なり、科学的に「免疫」への影響が説明できるからです。

各商品の機能性関与成分は乳酸菌の1種で、免疫の司令塔となる細胞に直接働きかける点が特長。司令塔に働きかけることで、NK細胞だけでなく、キラーT細胞、B細胞、ヘルパーT細胞といった多くの免疫細胞が一斉に活性化され、体全体の免疫機能に影響すると考えられています。

少し難しい話になりましたが、学校に例えると、司令塔である校長先生の号令によって、全クラスの教員が生徒を守るために一斉に動き出す、というようなイメージです。

一部の免疫細胞だけに働きかけるという従来のメカニズムとは、大きく違うと言えます。

倦怠感や寒気、くしゃみ、鼻水などの症状

次に、各社の届出資料をもとに、人体に対し、どのような効果が確認されたのかを見ていきましょう。

表示の根拠となった各研究を見ると、機能性関与成分を含む食品を摂取したグループと、他の食品を摂取したグループに分けて、効果の違いを比較。具体的には、「倦怠感」「寒気」「熱っぽさ」といった全身の症状や、「くしゃみ」「鼻汁」「のどの痛み」といった体の一部の症状について、二つのグループ間で差が出たかどうかを調べました。

その結果、機能性関与成分を含む食品を摂取したグループは、もう一方のグループと比べ、概ねそれぞれの症状が軽度に抑えられたようです。

新型コロナウイルスやインフルエンザへの効果は?

読者の皆さんに注意してほしいのは、機能性表示食品の根拠に用いる研究は健康な人(健常者)を対象としていること。つまり、今回の研究に参加したのも健康な人だけで、かぜを引いた人やインフルエンザについては検証されていません。このため、かぜやインフルエンザを予防したり、改善したりする効果は全く不明です。

新型コロナウイルスについても研究されていないので、当然、その予防・改善効果も期待できません。

あくまで今回の研究は、倦怠感や鼻水などの症状が、より軽度に抑えられるかどうかを調べたものです。

広告の拡大解釈は危険!

機能性表示食品の広告では「免疫機能を維持」とうたっていますが、ここまで見てきたとおり、かぜ、インフルエンザ、新型コロナウイルスを予防したり、改善したりする効果は期待できないか、または不明です。研究結果から言えるのは、「健康な人の免疫機能の維持をサポートする」ということだけ。 今の季節だと、かぜ、インフルエンザ、さらには新型コロナウイルスが頭に浮かぶかもしれません。でも、広告の拡大解釈は危険です。過度に期待して、手洗いやうがいなどの感染予防を疎かにしないように注意しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。