食品分野にはさまざまな表示制度があります。そのなかでも特に重要なのが「食物アレルギー表示制度」。食物アレルギーの方にとって、健康や命を守るために必要不可欠な表示だからです。食物アレルギー表示制度の基本と最新動向について解説します。
食物アレルギーとは?
食物アレルギーは、口から入った食品に含まれるアレルギー物質(主にタンパク質)を“異物”と判断し、その異物から体を守ろうとして起こります。「かゆみ・じんましん」「唇やまぶたの腫れ」「咳・喘息」などが代表的な症状です。人によって、軽微な症状から重篤な症状までさまざまです。重篤なケースでは「意識の喪失」「ショック症状」が起こります。最悪の場合、死に至ります。食物アレルギーの方にとって、商品選びはまさに命に関わることなのです。
食物アレルギー表示制度の基本
食物アレルギー表示制度は、食物アレルギーの方が適切に加工食品(健康食品・サプリメントも含む)を選択するためのもの。消費者庁が所管しています。アレルギーの症例数が多い原材料や重篤な症状が多い原材料(これらを「特定原材料」と呼びます)を対象に、商品パッケージに「〇〇〇を含む」という表示を義務づけています。特定原材料として「乳」「卵」などの7品目があります。
また、これまでに一定の頻度で健康被害が出た原材料については、「特定原材料に準ずるもの」として21品目を指定。21品目には表示を義務づけていませんが、可能な限り表示するように推奨しています。
食物アレルギー表示の見方
ここからは、食物アレルギー表示が商品パッケージにどのように記載されているのかを見ていきます。
(1)個別表示と一括表示
原則として食物アレルギー表示は、アレルギーの原因となる原材料のすぐ後に記載します。この表示方法を「個別表示」と呼びます。原材料に「ソーセージ、ニンジン、マヨネーズ、ピーマン、たんぱく加水分解物」を使用している食品を例に挙げます。
個別表示では、「ソーセージ(卵・豚肉を含む)、ニンジン、マヨネーズ(卵・大豆を含む)、ピーマン、たんぱく加水分解物(牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)」と表示します。太字の部分が食物アレルギー表示です。商品パッケージの表示面積が小さく、個別表示が困難な場合などでは、アレルギーの原因となる原材料をまとめて表示することも可能。これを「一括表示」と呼びます。
一括表示では、「ソーセージ、ニンジン、マヨネーズ、ピーマン、たんぱく加水分解物(卵・豚肉・大豆・牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)」と表示します。個別表示と一括表示が基本ですので、まずはこの2つの表示方法をしっかりと理解してくださいね。
(2)代替表記と拡大表記
食物アレルギー表示制度では、「代替表記」が認められています。これは、アレルギーの原因となる原材料と「同様のものである」と理解できる表記方法で、たとえば「卵」の代わりに「エッグ」、「乳」の代わりに「ミルク」と表示できます。
「乳」については、「ミルク」「チーズ」「バター」「バターオイル」「アイスクリーム」の代替表記が可能。「卵」は「玉子」「たまご」「タマゴ」「エッグ」「鶏卵」「あひる卵」「うずら卵」が認められています。「落花生」は「ピーナッツ」というように、各品目について表示可能な代替表記を定めています。
さらに、「厚焼き玉子」や「調製粉乳」というように、アレルギーの原因となる原材料を使用したものであると理解できる「拡大表記」も可能です。拡大表記の例を見ると、「えび」は「えび天ぷら」「サクラエビ」など、「かに」は「カニシューマイ」などがあります。「乳」は「牛乳」「生乳」「加糖れん乳」など、「落花生」は「ピーナッツクリーム」などが該当します。
ただし、「卵」については、「卵白」「卵黄」の拡大表記を認めていません。「卵白(卵を含む)」「卵黄(卵を含む)」と表示しなければなりません。これは、「卵」アレルギーの場合、「卵黄」だけなら食べられる方もいるのですが、産業的に「卵白」と「卵黄」を完全に分離することが難しいからです。一方、「乳」について誤解されやすいのが、「乳酸」「乳酸菌」「乳化剤」。「乳」が使用されていると誤解する方もいるのですが、これら自体に「乳」は含まれていません。
制度をもっと知ろう!
食物アレルギー表示制度には、やや複雑な面もあります。制度上の留意点をいくつか紹介します。
(1)注意喚起表示の意味
商品パッケージに「同じ製造ラインで大豆を含む製品を生産しています」といった注意喚起表示が行われることがあります。食品工場では、同じ製造ラインで異なる商品を製造することがあります。十分に製造ラインを清掃したとしても、直前に製造した商品に含まれる「乳」や「大豆」などが製造ライン上に残っている可能性は否定できません。また、微量の混入であっても、アレルギー症状が出ることもあります。十分な対策を取っても混入の可能性が否定できない場合には、商品パッケージに前述したような注意喚起表示を行うことが推奨されているのです。
(2)個包装に注意
せんべいやクッキーなどの菓子では、個包装の商品も多いですよね。個包装の表示を見て、アレルギーの原因となる原材料が入っていないと思って食べて、アレルギー症状が出るケースもあります。制度上、外装パッケージには表示が必要ですが、個包装への表示は必須とされていません。これは、バラバラに売られることを想定していないため。個包装の商品については、必ず外装パッケージの表示を確認するようにしましょう。
(3)制度の対象外の食品もある!
制度の対象とならない食品があることも理解しておきましょう。対象外となる食品は、主に次の3つです。
- スーパーや百貨店で量り売り、バラ売りをしている食品
- 外食店舗のメニュー
- アルコール類
今後の制度改正の方向
食物アレルギー表示制度の対象品目は定期的に見直すことになっています。というのも、食品によって健康被害件数や重篤な事例数が変化するからです。見直す際の根拠となるのが、3年ごとに消費者庁が実施している食物アレルギーに関する実態調査です。直近の動きを見ると、表示を奨励している「アーモンド」は2019年9月に追加されました。実態調査を基に検討した結果です。
今後の動きとしては、表示を義務づける品目に「くるみ」を追加する予定です。2015年度の調査で即時型症例数は74件でしたが、2018年度の調査では251件に急増していたためです。義務化すると、表示ミスに対して罰則が適用されます。その際、事実関係を確認するために「くるみ」の分析方法の確立が必要となることから、消費者庁では分析方法の開発を進めています。
最優先すべき表示制度
豪雨や台風の被害地域では、食品の流通量を確保する観点から加工食品の表示ルールが緩和されることがあります。しかし、そうした非常事態であっても、食物アレルギー表示については一切緩和されません。人の健康と命に直結するからです。
このように食物アレルギー表示制度は、非常に重要な位置づけとなっています。食物アレルギーの方が少しでも安心して加工食品を利用できるように、引き続き、制度がより充実した内容となることを期待したいですね。