有機農業の普及と有機食品の市場拡大に向けて、政府は本腰を入れています。農林水産省は2022年7月1日、「みどりの食料システム法」を施行しました。この法律は、化学農薬・肥料の使用低減と有機農業の拡大を目指す「みどりの食料システム戦略」を法制化したもの。近い将来、有機食品がより身近なものになると期待されています。
農水省が総力を挙げて取り組む「みどりの食料システム戦略」とは?
「みどりの食料システム法」は、農水省が2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」の推進を目的としています。同戦略は、2050年までに以下のような目標の実現を目指しています。
・農林水産業の二酸化炭素ゼロエミッション化。
・化学農薬の使用量を50%低減。
・輸入原料や化石燃料で製造する化学肥料の使用量を30%低減。
・耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%(100万ヘクタール)に拡大。
これらの目標は、現状を考えるとかなり大胆と言えるかもしれません。特に、有機農業の取り組み面積については現状が2.35万ヘクタールで、目標を達成するには40倍以上の拡大が必要となります。
環境にやさしい食料システムの構築で未来の食を守る!

2050年までの目標達成が可能かどうかは別として、「みどりの食料システム戦略」が掲げた目標に向けて、努力することは重要です。
まず、国際社会が共通で取り組むSDGs(持続可能な開発目標)への対応があります。未来の子どもたちの食を守るために、環境にやさしい食料システムの構築が不可欠です。そのためには、農業・食品分野の地球温暖化ガスの削減、サステナブルな食料生産を実現する仕組みの構築が必要なのです。
化学農薬については、地球温暖化を背景に病害虫がまん延するリスクが拡大するなかで、農薬に耐性を持つ病害虫の発生が問題視されています。
また、日本は化学肥料の原料のほとんどを輸入に頼っています。しかし、輸入先国による輸出規制の強化や原料価格の高騰などで、十分な量の確保が困難になっています。
そこで、化学農薬や化学肥料を使用しない有機農業の推進がカギを握っているわけです。同時に、有機食品に対する消費者ニーズを高め、市場を拡大させることが求められています。
「みどりの食料システム法」により、生産者などを税制・融資面で支援
有機農業の拡大を目指す「みどりの食料システム戦略」を絵空事に終わらせないために、さまざまな取り組みを推進しなければなりません。
このため、2022年7月1日に施行された「みどりの食料システム法」では、目標実現につながる事業計画の認定制度を導入しました。農業と食品産業の持続的な発展を促進するため、生産者などを税制や融資面で支援します。
支援の対象となる取り組みは、化学農薬・肥料の使用削減や温室効果ガスの排出削減に取り組むための設備投資、環境に配慮して生産された農林水産物の加工・流通施設の設備投資、化学農薬・肥料の使用低減に必要な機械の設備投資などです。
化学農薬・肥料の使用低減へ多様な取り組みを想定
「みどりの食料システム戦略」では、具体的な取り組み事例を挙げています。
化学農薬の低減では、天敵を含む生態系の相互利用、低リスクの農薬・防除技術、RNA農薬や生物農薬の活用、植物のストレス耐性を高める技術の活用などが想定されています。
化学肥料の低減については、地力維持を考慮した輪作体系の構築、堆肥の有機資源を活用した施肥体系の確立、土壌微生物の活用技術の開発などが対策に挙がっています。
有機食品の販路拡大も今後の課題

有機農業の推進に伴って必要となるのが、有機食品の販路拡大です。農業の生産現場で有機農産物をたくさん作っても、有機食品に対する消費者ニーズが増えなければ意味がありません。
そのためには、私たち1人ひとりが、有機食品を消費することの意義を理解することが大切です。
前述したように、SDGsへの対応、未来の子どもの食を守るサステナブルな食料システムの構築に向けて、有機農業の推進が不可欠となっています。この点を意識して、私たちも有機食品を選ぶという行動が求められそうです。
化学農薬や化学肥料を使用した食品を避けたい方にとっては、取り組みが進めば、有機食品を購入しやすい状況が整い、品ぞろえも充実するなど、買い物が一層楽しくなるでしょう。
環境保全などの観点から食品選びを!

農水省の「みどりの食料システム戦略」と「みどりの食料システム法」によって、有機食品市場の拡大が予想されます。今後は将来の子どもの食を守るという観点からも、有機食品に関心を寄せることが大切となるでしょう。
これまで有機食品に関心がなかった方も、地球環境保全やサステナブルな食料システムの構築という社会共通の目標に向けて、食品選びを見直してみてはいかがでしょうか。