新たな遺伝子組み換え表示制度、メリットとデメリットとは?

2023年4月から、新たな遺伝子組み換え表示制度がスタートし、「遺伝子組み換えでない」と表示するためのルールが厳格化されました。「たとえわずかでも遺伝子組み換え農産物が入っているのに『遺伝子組み換えでない』と表示するのはおかしい」という声に応えた改正ですが、その一方で「遺伝子組み換え食品を避けたい消費者にとって選択の機会が奪われた」という批判も聞かれます。制度改正のメリットとデメリットについて考えてみました。

「遺伝子組み換えでない」表示のルールを変更

まず、表示制度の改正によって、何が変わったのかを見ていきましょう。

改正のポイントは、「任意表示」のルール変更です。改正前は、分別生産流通管理を行って遺伝子組み換え農産物(大豆・トウモロコシ)の混入が5%以下ならば、企業の任意によって「遺伝子組み換えでない」や「遺伝子組み換えでないものを分別」と表示できました。分別生産流通管理とは、遺伝子組み換え農産物と非遺伝子組み換え農産物を生産・流通・加工の各段階で分別管理し、書類によって証明すること。「IPハンドリング」とも呼ばれます。

改正後(現行制度)は、「遺伝子組み換えでない」と表示する場合、分別生産流通管理を行い、遺伝子組み換え農産物(大豆・トウモロコシ)の混入が科学的手法によって検出されないことが要件となりました。また、分別生産流通管理を行って、意図しない混入を5%以下にコントロールしている場合は、「大豆(分別生産流通管理済み)」「トウモロコシ(遺伝子組み換え混入防止管理済み)」などと任意で表示できます。

つまり、遺伝子組み換え農産物の混入が確認されないケースと、混入率が5%以下のケースの2段階に分けて、それぞれの表示方法で記載できるようにしたわけです。

消費者に正確な情報を提供できるというメリットも

なぜ、このような方向に改正したのでしょうか。消費者庁の検討会で、消費者団体の委員から「5%以下であっても遺伝子組み換え農産物が混入しているのに、『遺伝子組み換えでない』と表示するのは消費者を誤認させる」という意見が相次いだからです。

そのように言われると、「確かにそうだな」と思う方もいることでしょう。制度改正には、消費者に対してより正確な情報を提供できるというメリットもあります。

生協や消費者団体は反対意見を表明

しかし、世の中には制度改正を支持する意見ばかりではありません。反対意見も生協や消費者団体などから噴出しています。どうしてでしょうか?代表的な反対意見をいくつか紹介します。

北東京生活クラブ生活協同組合では、「『遺伝子組み換えでない』表示の条件の厳格化で『遺伝子組み換えでない(ものを分別)』表示が実態として減少する、あるいはなくなるとすれば、消費者にとって遺伝子組み換えでないものを選択する手段が実質的になくなります。『遺伝子組み換えでない(ものを分別)』表示を支えてきたIPハンドリングの仕組みそのものに対しても大きなダメージとなります」と訴えています。

これに加えて、混入率5%以下の場合の表示方法についても、「より分かりにくい表示になってしまうと言わざるを得ません」と指摘しています。

生活協同組合パルシステム東京では、「『遺伝子組み換えでない』表示の厳格化は検討会で消費者側委員から出されたとはいえ、この表示がなくなることは多くの消費者の要望に反しています」との意見を表明。「現行の5%限度は緩すぎると考えますが、例えば1%または0.9%を限度として、許容限度を具体的に定めることを要望します」と主張しています。

また、消費者団体の日本消費者連盟も、「油や糖類など、遺伝子組み換え作物を原料としている食品に『遺伝子組み換え』と表示されない現状を放置して、分別生産流通管理によりほとんど遺伝子組み換えでない作物を原料にしている食品に『遺伝子組み換えでない』表示ができなくすることに対し、『厳格化』と主張するのは、誤った解釈を世の中に広めることになります」と抗議しています。

非遺伝子組み換え食品の選択手段が狭まるというデメリット

これらの意見で述べられているように、制度改正のデメリットとして、(1)消費者が非遺伝子組み換え食品を選択する手段が狭まる、(2)混入率5%以下の「分別生産流通管理済み」などの表示は消費者にとって分かりにくい――ことがあります。

制度改正をめぐる議論で反対意見が出たことについては、あまり大きく報道されませんでしたが、消費者団体の間でさえも、考え方が鋭く対立しているというのが現状です。

新たな制度は消費者ニーズに応えられるのか?

遺伝子組み換え食品を避けて、もっとナチュラルなものを口にしたいと考える消費者は少なくありません。新たな遺伝子組み換え表示制度は果たして、そうした消費者ニーズに応えられるのでしょうか?

改正制度は2023年4月にスタートしたばかりのため、すぐに再検討することは困難とみられていますが、多様な消費者ニーズに沿った内容に見直されることが望まれています。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。