自分自身にとって必要な栄養成分の含有量がわかる
「熱量」や「たんぱく質」などの量を表示する栄養成分表示について、もっとわかりやすく伝える手法が検討されています。栄養成分表示は生活習慣病を予防する上で、食品を選択する際に重要な役割を果たしています。しかし、現行の表示方法はわかりにくく、使い勝手が悪いという批判があります。そこで消費者庁は、容器包装の前面に統一した様式(ロゴ)を用いて、ひと目で理解できる表示方法を導入する方針です。新たな栄養成分表示の手法について解説します。
わかりにくい栄養成分表示
栄養成分表示は、食品の容器包装に「熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量)」の含有量の表示を義務づけています。これらの5項目は私たちが生命を維持する上で不可欠なもので、生活習慣病とも深く関連しています。「飽和脂肪酸」「食物繊維」については義務ではなく、推奨表示の位置づけです。
例えば、塩分の摂り過ぎは高血圧の原因となり、さまざまな疾病を招きます。また、ダイエット中の若い女性で見られますが、熱量が極端に不足すると、不健康な“痩せ”の原因となります。高齢者にとっては、不自由なく日常生活を送るために、元気なうちからたんぱく質をしっかりと摂取することが大切です。
栄養成分表示は健康を守るために、食品を選択する上で重要な役割を果たしています。ところが、食品の購入で栄養成分表示を参考にしている人は63%にとどまっています。というのも、ほとんどの食品では、容器包装の裏面に小さな文字で記載されていて、表示方法も「1食分(〇〇g)あたり〇g」で、1日に必要な量の何割くらい摂取できるのかがわかりにくいからです。
海外で進む包装前面栄養表示

これに対して海外諸国では、それぞれの国の健康政策に沿って、栄養成分表示をわかりやすい表示方法(ロゴやマーク)によって、容器包装の前面に記載する「包装前面栄養表示」を採用しています。カナダ、メキシコ、タイなどは義務化しています。イギリス、イタリア、フランス、オーストラリア、スウェーデン、シンガポールなどは任意表示として運用しています。
また、WHO(世界保健機関)は2019年に、包装前面栄養表示のガイドラインを公表しています。
事業者の任意による制度に
日本では健康政策の面で、塩分の摂り過ぎや若い女性の痩せなどが課題となっています。日ごろの食生活を見直してもらうために、栄養成分表示を有効活用してもらうことが重要となります。このため、食品表示を所管する消費者庁は、日本でも包装前面栄養表示を導入する方針を決定しました。
2023年11月から検討を開始し、2025年3月に方向性を取りまとめました。包装前面栄養表示は法令上の義務を課さずに、ガイドラインによって運用する方針です。事業者の任意で表示することになりますが、表示方法が事業者によってバラバラだと、わかりにくい状況となってしまいます。このため、ガイドラインを作成し、一定のルールを設ける考えです。
平均摂取量の何%かがわかる
表示方法については、ひと目でわかるように、様式(ロゴ)を用いて記載することになります。様式(ロゴ)には、「1食分」のエネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量)の含有量と、栄養素等表示基準値(成人の1日あたり摂取量の目安)に占める割合を記載します。
これにより、1食分を食べた場合に、各栄養素をどのくらい摂取したかがわかるとともに、その摂取量が、1日に摂取する平均量の何%を占めるかが理解できるようになります。
例えば、健康診断で血圧が高いことから、塩分を控えるように指導された方は、包装前面栄養表示の「ナトリウム(食塩相当量)」を見て、商品を選ぶことができます。
様式(ロゴ)は単色で

様式(ロゴ)案として、白黒などの単色でデザインすることが予定されています。様式(ロゴ)に記載する項目は、エネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量)の5項目で、すべて記載しなければなりません。
様式(ロゴ)は、(1)罫線で囲むなどによって識別化(視認性を高める)、(2)読みやすい書体を選択(可読性を高める)、(3)記載している数値が何かを伝える(補足する情報)――を基本とする方針です。
包装前面栄養表示の導入に向けて課題もあります。販売時点の栄養成分の含有量と、実際に食する時点の含有量が異なる食品の扱いです。例えば、茶葉やコーヒー豆、濃縮ドリンク、塩蔵ワカメ、カップ焼きそば、牛乳で作るココアなどが、その代表例です。これらの食品については、基本的に摂取時の量を表示することが想定されています。
商品選択が容易に

消費者庁は、法的な義務づけを避けて、ガイドラインによる運営を想定しています。ただし、将来的に、事業者が強調したい栄養成分のみを前面に表示するなど、消費者にとってわかりにくい状況が生じた場合には、規制を検討する可能性もあります。
消費者庁は2025年夏以降にガイドライン(案)を公表し、パブリック・コメントを募集する計画です。包装前面栄養表示が導入されると、自分自身にとって必要な食品が選びやすくなると考えられます。今回は任意による制度ですが、多くの事業者が採用することが期待されています。