企業の広告であるのにもかかわらず、企業とは無関係の第三者の評価に見せかける「ステルスマーケティング(ステマ)」が問題となっています。ステマの取り締まりは景品表示法という法律によって実施され、健康食品分野でも違反事例の第1号が出ました。ステマの取り締まり状況と、通販会社が留意すべきポイントについて解説します。
ステマ規制は2023年10月1日に開始
景品表示法によるステマ規制は、2023年10月1日にスタートしました。その後、これまで(2025年3月21日現在)に4件が法違反に問われました。
1件目は、クリニックが来院者に対し、診療サービスについてグーグルマップへの口コミ投稿を依頼していたという案件です。クリニックは受付時に来院者に対し、「星5」または「星4」(星は5段階あり、「5」になるほど高評価)の投稿を条件に、インフルエンザワクチン接種の費用を割り引くと伝えていました。これは、誰の目から見てもすぐにステマであるとわかる事例と言えます。
2件目は、フィットネスジムを展開する会社が、インフルエンサーのPR投稿を自社サイトで「お客様の声」として表示していたという案件です。インフルエンサーに対し、SNSのインスタグラムに投稿を依頼していたのですが、そのことを明らかにせずに、投稿された内容を抜粋し、自社サイトに掲載していたことが違反に問われました。
サプリメントの広告でも違反認定

このようにステマ規制は、クリニック、フィットネスジムの宣伝でスタートしました。そして2024年11月に、健康食品で初のステマによる景品表示法違反が公表されました。
販売会社A社は、自社ウェブサイト「〇〇オンラインショップ」でサプリメントを販売する際に、ステマを行っていたことが違反に問われました。
A社の違反事例の内容を見ていきましょう。A社は広告代理店を介して、複数人のインフルエンサーにサプリメントについて投稿を依頼しました。インフルエンサーはSNSのインスタグラムに投稿し、その際、A社からサプリメントを無償で提供されるとともに、報酬を受け取っていました。
A社は、自社ウェブサイトに投稿の一部を抜粋して掲載したのですが、その際に「PR」「プロモーション」「広告」といった表示は記載されていませんでした。具体的な掲載内容は次のとおりです。
・「△△様」、「いくつになっても自分らしく、“今が最高”と思える活き活きとした日々を過ごしていきたいですね!」
・「××様」、「原料から製造まで徹底管理されてる国内製造!! 体に入れるものは安心できるものが良いよね!」
・「□□様」、「1日目安3粒ずつの個包装になっているので衛生的でとても便利!」
投稿を一部抜粋して掲載
この違反事例で注意すべきポイントは、A社の依頼によって、複数のインフルエンサーがインスタグラムに投稿した内容はPR投稿であり、違法と認定されていないこと。問題となったのは、インスタグラムへの投稿内容をA社が一部を抜粋し、自社ウェブサイトに掲載した行為でした。
つまり、A社の依頼によって投稿された内容であることを明確にせず、公正な立場の第三者であるユーザーが寄せた評価であるという誤認を与えていたわけです。
ステマ規制の2要件とは?
景品表示法の規制対象となるステマについては、同法に基づく告示で定められています。告示によると、ステマとは「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と規定されています。
わかりやすく説明すると、(1)事業者の表示であること、(2)消費者にとって事業者の表示であることがわかりにくいこと――という2つの要件を同時に満たすとステマと認定されるわけです。
企業が表示内容に関与したかどうか
健康食品の通販会社などでは、ステマとならないようにどう注意すべきなのでしょうか。まず、ステマの1つ目の要件である「事業者の表示であること」について考えてみましょう。
インフルエンサーや著名人に、SNSなどへ自社製品について投稿してもらう行為自体は、「PR」「広告」と記載するなど、企業が投稿を依頼した旨がわかれば違法に問われません。その際に、自社製品を無償で提供することなども、それだけで直ちに違法となるわけではありません。
一方、依頼時に、投稿内容を指示・指定した場合は問題となります。また、投稿するようにはっきりと依頼していないものの、遠回しに今後取引が生じることを想起させた場合なども問題となります。
インフルエンサーなどが自分の意思で行った表示(=事業者の表示に該当しない)と認められるかどうかは、事業者からの表示内容に関する依頼・指示の有無をはじめ、対価の内容、過去の関係性や今後の関係性などを踏まえて判断されます。
端的に言えば、企業が表示内容に関与したかどうかが問われることになります。
「PR」「広告」などと明記
ステマの2つ目の要件である「消費者にとって事業者の表示であることがわかりにくいこと」については、企業のプロモーションである旨を明確に示すことがポイントとなります。
例えば、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言を使用しているかどうか、または「〇〇社から商品の提供を受けて投稿している」などの表示があるかどうかが問われます。
ステマは企業イメージの低下に

行政は引き続き、ステマの取り締まりに注力すると予想されます。ステマは購入者を騙す手口の代表例ですので、ステマ規制の違反は企業イメージを大きく低下させてしまいます。
このため、販売会社が広告を展開する際には、隅々まで内容をチェックすることが求められます。