ご存じですか?地理的表示(GI)保護制度

「八丁味噌」「三輪素麺」といった馴染みのあるブランド名。実は国の制度に登録された知的財産権なのです。特定の地域でしか生産されない特色のある食品などを対象とした「地理的表示(GI)保護制度」。農産物や加工食品のブランドの保護に加え、生産現場の振興にも一役買っています。偽ブランドにだまされないための「地理的表示」について解説します。

地理的表示保護制度とは?

あなたもご存じの「夕張メロン」。オレンジ色の果肉が特徴ですね。繊維質が少ないため、食感は柔らか。糖度は10度以上で、芳醇な香りがします。

「夕張」を強調した名称には理由があります。「夕張メロン」の栽培には、昼夜の気温差が大きく、降水量が少なくて、火山灰土壌で水はけの良い土地が必要。これに加えて、長年にわたって蓄積された栽培技術も必要です。夕張でしか生まれない品質であることから、ほかのメロンと差別化しているわけですね。

「夕張メロン」のように、その地域に特有の気候・風土や伝統的な生産方法が、品質の特性に結びついている産品はたくさんあります。そうした産品の名称を「地理的表示」と呼びます。地理的表示を国に登録して保護する仕組みが、「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」です。

地理的表示保護制度は1900年代初頭にヨーロッパで創設されました。現在は世界中に普及し、日本では「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)」に基づき、農林水産省が所管。2015年6月から制度運用を開始しています。

どのようなメリットがあるの?

たとえば、一般的な牛肉を「神戸ビーフ」と表示して販売した場合、どのような問題が生じるのでしょうか。

本物の「神戸ビーフ」を生産するために、手間とコストをかけた生産者が大迷惑しますよね。消費者も偽物をつかまされ、「『神戸ビーフ』と信じて買ったのに」と悔しい思いをします。

そうした事態を防ぐのが、地理的表示保護制度の目的。生産者や加工業者の団体が農林水産省に申請し、「産品・生産地・品質基準」が登録されれば、地理的表示とGIマークの使用が可能になります。競合品との差別化が進むとともに、消費者に安心して選んでもらえるというメリットがあります。

登録された地理的表示やGIマークは商品パッケージに限らず、広告やインターネット上の販売サイトでも使用可能。外食メニューにも記載できます。

不正使用すると懲役罰金の可能性も

もし、ブランド産品の偽物が販売された場合はどうなるのでしょうか。

地理的表示保護制度に登録していない産品については、当事者間で話し合うか、または裁判によって解決するしかありません。

「知的財産権を侵され、訴訟を起こした」というニュースを耳にすることがありますよね。食品分野でも、知的財産権をめぐる事業者間の訴訟は珍しくありません。

一方、地理的表示保護制度に登録された産品については、行政が偽物を取り締まり、市場から排除してくれます。地理的表示の不正使用が見つかった場合、農林水産省は改善を命じます。命令に違反すると、懲役(5年以下)や罰金(個人500万円以下、団体3億円以下)が科せられます。

このため、事業者間で争うことなく、ブランドを守ることができます。

110品目以上が登録済み

地理的表示保護制度に登録済みの産品は111品目(2021年10月8日現在)に上ります。

登録の対象は、すべての食用農林水産物と加工食品。ただし、酒類は対象外です。また、非食用農林水産物も対象とし、観賞用植物・工芸農産物・真珠・木炭・生糸・木材・畳表などがあります。

代表的なものとして、次のような産品が登録されています。

「夕張メロン」(北海道)、「前沢牛」(岩手)、「南郷トマト」(福島)、「山形ラ・フランス」(山形)、「越前がに」(福井)、「市田柿」(長野)、「三輪素麺」(奈良)、「八丁味噌」(愛知)、「神戸ビーフ」(兵庫)、「特産松坂牛」(三重)、「鳥取砂丘らっきょう」(鳥取)、「三瓶そば」(島根)…。

これらの食材を一斉に食卓に並べることができたら、どれほど幸せかと思ってしまいますよね。

食品以外では「伊予生糸」(愛媛)、「くまもと県産い草」(熊本)などが登録されています。

登録済み産品には、健康食品に使用される食材も見られます。「鹿児島の壺造り黒酢」(鹿児島)、「あおもりカシス」(青森)、「琉球もろみ酢」(沖縄)などがあります。

生産量拡大の効果も

地理的表示保護制度の効果として、国産食材の生産現場の活性化につながっている点も挙げられます。

取引量の増加や販路拡大もその一つ。「市田柿」(長野)の輸出額の拡大、「みやぎサーモン」(宮城)の対米輸出の開始、「南郷トマト」(福島県)の販売額の増加などが報告されています。

さらに、登録を機に生産者数が増加するなど、生産現場の担い手確保につながるケースもあります。

国産品の振興に意義深い制度

ここまで見てきたように、地理的表示保護制度は地域産品の知的財産権を保護し、生産現場を活性化させる役割をはたしています。国産品の振興で意義深い制度であると言えます。

登録数は年々増加し、直近では「くまもと塩トマト」や「わかやま布引だいこん」などが登録されました。私たちにとっては商品の選択時の参考となり、制度のさらなる発展を期待したいですね。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。