野菜を工場で生産する時代に生きる私たち。「植物工場」を取り巻く現状と課題を知ろう。

「植物工場」で人工光によって栽培されたレタスやトマトなどが市場に出回っています。国内農業の衰退を考えると、植物工場は重要な役割を担っているのですが、課題も多く、普及は伸び悩んでいます。植物工場をめぐる現状と課題を見ていきましょう。

植物工場とは?

植物工場は閉鎖された室内で、人工的な光を使用して作物を栽培するシステム。光に加え、温度・湿度、水分、二酸化炭素濃度といった生育環境を人工的に制御し、一定の品質に保ちます。

太陽光なしに栽培できるため、都心のビルでも大量生産できます。まさに“工場”という表現がぴったりですね。

植物工場には「完全人工光型」と「太陽光利用型」の2種類があります。「完全人工光型」は、閉鎖した環境下で太陽光を利用せずに、LEDなどの人工光で栽培する手法。「太陽光利用型」は、半閉鎖環境の下で太陽光を利用しながら、雨天や曇天の日には人工光を補うという手法です。

栽培品目の代表はレタスとトマト

植物工場の主な栽培品目を見ていきましょう。「完全人工光型」ではレタス類が圧倒的に多く、次にハーブ類(バジル、パクチー、クレソンなど)が続きます。レタスが多いのは、年間を通じて安定した需要があり、また光の必要量が少なく、栽培しやすいからです。

「太陽光利用型」ではトマト類と花きが多く、次にレタス類。花きはバラ、胡蝶蘭、トルコギキョウが代表的なものです。レタス類以外の野菜は、ホウレンソウ、小松菜、ミズナ、ミツバ、ピーマン、パプリカなどが栽培されています。

植物工場のメリット

屋外の露地栽培では、年間を通じて安定的に作物を生産することは困難です。一方、植物工場の場合、温度・湿度・光などを管理できるため、周年で生産が可能です。

年間を通じて生産できることから、計画に沿って必要な量を生産・出荷できます。露地栽培の場合、天候不順によって不作の年もありますが、植物工場ではそうした心配もありません。

作物の栄養素の量を調整できる点も、植物工場のメリットです。生育条件をコントロールできるため、作物の品質を一定に保つことが容易で、特定の成分の含有量を増やすこともできます。

また、閉鎖空間で栽培するため、病原菌や害虫によるリスクを大幅に減らせます。露地栽培と比べて、農薬を使用せずに栽培しやすい点もメリットに挙げられます。

「完全人工光型」植物工場の運営は8割が株式会社

植物工場はどのような組織が運営しているのでしょうか。

「太陽光利用型」の場合、農業生産法人が5割を占め、株式会社が3割強。そのほか、個人の農業者などとなっています。

一方、「完全人工光型」では約8割が株式会社です。これは、太陽光が不要なことから農地以外の場所でも建設できて、企業が参入しやすいからです。

植物工場が抱える課題とは?

一見したところ、メリットばかりが目に付く植物工場ですが、課題も少なくありません。最大の問題は、経営が赤字となるケースが多いこと。

「太陽光利用型」の場合、5割が赤字、3割強が収支トントンといったところです。株式会社の参入が多い「完全人工光型」でも、赤字とトントンがそれぞれ4割を占め、黒字を出しているのは2割もありません。

植物工場の運営で特にコストがかかるのが、「人件費」「減価償却費」「水道光熱費」。この3つで全体のコストの約7割を占めます。

さらに、植物工場の建設には巨額の初期投資が必要です。人工光システムや空調システムなどの導入も含めて、規模にもよりますが、数億円かかると言われています。

施設数は伸び悩み

そうした事情を背景に、植物工場の施設数は伸び悩んでいます。農林水産省の調べによると、植物工場の施設数は2016~17年までは右肩上がりで増加してきましたが、ここ数年は横ばいで推移しています。2021年2月時点で「太陽光利用型」が33施設、「完全人工光型」が187施設となっています。

今後は、植物工場でも人手不足が深刻化すると予想されています。それに伴って人件費の高騰も経営を圧迫するとみられます。

植物工場が抱える問題は、コスト面だけではありません。現在のところ、栽培可能な作物が限定されることも課題に挙がっています。

農業者の減少と高齢化を背景に、企業が経営する植物工場の浸透は当然の成り行きという見方もできます。しかし、課題が山積していて、その普及は踊り場に差しかかっていると言えます。

食料不足への対応

多くの課題を抱える植物工場ですが、食料不足の解決に貢献できる側面もあります。

世界的に食料不足は深刻な状況にあり、将来的に日本も他人事ではなくなってくるでしょう。これに対し、植物工場は作物の栽培に適さない地域でも建設できるという強みがあります。

植物工場には多くのメリットとデメリットが混在していますが、多角的な視点から、その是非を考える必要がありそうです。

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フリーライター。食品、サプリメント、医薬品、医療、通販などの分野を中心に取材・執筆活動。玉石混交の情報が氾濫する中で、正しい情報の発信を目指します。千葉ロッテマリーンズを応援。仕事で疲れた時は、MISIAさんの歌が一番の癒し。