「大豆ミート」とどう違うの?
タンパク源となる肉類が不足する“タンパク質クライシス”を背景に、注目度が高まっている「大豆ミート」に加えて、日本でも「培養肉」の流通開始に向けた動きが慌ただしくなっています。私たちにとっては、その安全性も気になるところです。培養肉に関する動向を紹介します。
近い将来、食肉類の供給がショート
日本では少子化が社会問題となっていますが、世界の人口はどんどん増え続けています。2050年には約100億人に達すると予測されています。これに合わせて、これまで牛肉や鶏肉などをあまり消費してこなかった新興国でも、食生活が豊かになるにつれて、食肉の消費量が拡大するのは必至です。
その結果、世界中で食肉の奪い合いが発生し、日本も十分な量を確保することが困難になるかもしれません。現在のようにいつでも店頭で牛肉や鶏肉などを購入できる状況が、近い将来、終わるのではないかと言われています。
普及してきた低脂肪の「大豆ミート」

“タンパク質クライシス”に加え、健康志向の高まりを受けて注目されているのが「大豆ミート」です。大豆ミートは、大豆を原材料に用いて、見た目も風味も本物の食肉とそっくりに作り上げたもの。
牛肉などと同様に、大豆には上質なタンパク質が多く含まれています。その上、食肉類と違って、動物性の脂質を含まず低脂質で、しかも食物繊維も豊富なことから、健康に良いとされています。
食肉に代わるタンパク源として、またヘルシーな食品として大豆ミートは、日本でも普及しつつあります。大手食品メーカーなどでは、大豆ミートを使用した加工食品を幅広い層に向けて提案しています。
動物の細胞から作られる「培養肉」が登場
世界的に食肉類の供給量が不足する“タンパク質クライシス”に対応する上で、より直接的な取り組みとして、注目されているのが「培養肉」の研究開発です。
培養肉とは、牛や鶏など家畜を飼育せずに、動物の細胞から工場内で作られる食肉のこと。まるで、SF映画のような話ですが、国内外で実用化が進みつつあります。
シンガポールでは既に小売販売が始まっています。このほか、米国やスペインなどでも研究開発が進展を見せています。研究開発されている商品も、ステーキ肉をはじめ、魚肉やフォアグラなどがあります。
培養肉はどのように作るの?

ところで、培養肉はどのようにして作られるのでしょうか。商品の種類や企業によって製造方法は異なりますが、おおよそ次のような手順で製造されます。
最初に、牛などの動物から細胞を取り出します。次に、採取した細胞を増やすために、栄養成分を含んだ培地で培養します。
ある程度まで増えた細胞をバイオリアクターと呼ばれる装置に移して増殖させます。ここまでの過程によって作られた“成果物”を取り出して、最終商品に仕上げます。培養肉の出来上がりです。
培養肉の国内流通は法的に可能
日本国内では培養肉の販売はまだ始まっていませんが、実は、培養肉の流通は法律で禁止されているわけではありません。このため、海外から培養肉の商品が輸入され、国内で販売される可能性もあります。
「えっ、大丈夫なの?」と心配する方もいると思います。食品の流通は、食品衛生法という法律で規制されます。同法によると、健康被害が発生している、または健康被害が発生する恐れがある食品については流通を止めることが可能ですが、そうでなければ販売できるというのが原則です。
日本には培養肉の販売を禁止する法律はありません。一方、国内の食品業界は、大手メーカーやベンチャー企業を中心に培養肉や培養魚肉の研究開発を進めていて、商業化に向けて国がルールを整備することを待っている状況にあります。
国が安全性確保のガイドライン作成へ
そうした国内外の現状を踏まえ、国も培養肉に関するルールづくりに動き出しています。消費者庁は2024年11月、食品衛生基準審議会新開発食品調査部会で、培養肉などのリスク管理のあり方について検討を開始。安全性を確保するために、製造工程で特に注意する必要があるポイントを整理する予定です。
具体的には、製造工程を「細胞の調達」「生産工程・収穫工程」「食品加工」の3段階に分けて、各段階のチェック項目をガイドラインにまとめる予定です。チェック項目として、「細胞の調達」では細胞を採取する動物の安全性など、「生産工程・収穫工程」では使用する培地・抗菌剤など、「食品加工」では着色料や栄養組成などが挙がっています。
現在(2025年3月21日)のところ、消費者庁が安全性を確保するためのガイドラインを作成し、メーカーはガイドラインに沿って製造を行うことになりそうです。法的拘束力の弱い仕組みを整備し、食品業界の競争力を確保する方向になると考えられています。
消費者に受け入れられるか?

日本国内のいくつかの企業では、培養肉や培養魚肉などの研究開発に本腰を入れつつあり、市場に流通する日はそう遠くないかもしれません。
気になる安全性については、今後作成されるガイドラインを順守して製造されることになり、心配しすぎる必要はないとみられています。ただし、風味や食感、販売価格も含めて、消費者に受け入れられるかどうかは今のところ未知数です。