新たなバイオ技術によって作り出される「ゲノム編集食品」。まだ口にすることはほとんどありませんが、商品化が進んでおり、当たり前のように食卓に並ぶ日も近いかもしれません。ところで、ゲノム編集食品とはどのようなものでしょうか?遺伝子組み換え食品とどう違うのでしょうか?ゲノム編集食品についてお話します。
GABAが多いトマト、可食部を増量させたマダイ
GABAを豊富に含むトマト、可食部を増量させたマダイ…。これらはゲノム編集によって作り出された新たな食品です。すでに販売が開始され、話題になったことから、耳にしたことのある方も多いと思います。
ゲノム編集食品と聞いて、「そんなものを食べても大丈夫かしら?」と不安になる方もいるでしょう。また、「遺伝子組み換え食品とどこが違うのか、よくわからない」という疑問も浮かんできませんか?
「ゲノム」とは?

ゲノム編集食品とは、どのようなものかを見ていきましょう。
ゲノム編集食品の「ゲノム」とは何か?動物や植物を構成している1つひとつの細胞には、DNA(遺伝物質)が含まれています。DNAは、4つの物質(A・C・G・Tで表現)がつながって構成されています。DNAには動物・植物の性質を決定する遺伝子が含まれていますが、この遺伝子を含めたDNA全体を「ゲノム」と呼びます。
自然環境のなかで、DNAが何らかの原因によって切断されることがあります。生物はDNAを修復する機能を兼ね備えているのですが、元通りに正しく修復されない場合には、例えばイネだと、同種類のイネと性質が違うものが生まれます。これを「変異」と言います。
従来の「育種」も変異を利用
農産物や魚類に用いられてきた育種技術は、「変異」を意図的に発生させるというもので、これによって異なる品種を作り出してきたわけです。育種技術で生まれた新たな品種の食品については、安全性で問題がなく、これまで私たちも日常的に口にしてきました。
その代表例はイネやトマト。今や世界中で評価が高いコシヒカリは、戦時中の1944年に「農林1号」と「農林22号」を掛け合わせて、育種されてきたものです。また、トマトは育種によって、さまざまなサイズ・形のものが登場しています。
従来の育種技術は、突然変異を利用して品種改良を行うというもの。この場合、意図しない変異が起こるため、そうした突然変異については交配・選抜によって取り除きます。
狙いどおりの変異を起こす

では、ゲノム編集食品とは、どのようなものでしょうか?前述したように、動物や植物を構成するDNAが何らかの理由で切断されると、生物は自ら修復しようとしますが、正しく修復されない場合にはDNAの配列が変化し、突然変異が起こります。
ゲノム編集食品は、DNAを切断する酵素を使用して、DNAに変異を起こして作り出されます。
ここで重要となる点は、ゲノム編集の場合、特定のDNAの配列を切断できる酵素を使用することから、狙いどおりの突然変異を発生させることが可能なこと。従来の育種技術では、どの配列が切断されるのかがわからなかったのですが、ゲノム編集技術を用いると、特定の配列を切断することができて、効率性が飛躍的に向上します。
ゲノム編集食品の手続きは事前相談と届出
ここまで聞いて、「遺伝子組み換え食品と同じように思えるのだけど?」という方も多いかと思います。
DNAにアプローチするという点では、ゲノム編集食品も遺伝子組み換え食品も共通しています。しかし、遺伝子組み換え食品は、ほかの植物から取り出した遺伝子を「ゲノム」に組み込み、新たな性質を持たせるようにします。
例えば、遺伝子組み換え大豆は除草剤に強い性質を持ち、遺伝子組み換えトウモロコシには害虫に強い性質があります。
これに対してゲノム編集食品は、特定のDNAの配列を「変異」させて作られ、従来の育種技術とかなり近いものと言えます。
また、遺伝子組み換え食品については安全性を食品安全委員会で審議しますが、ゲノム編集食品は基本的に厚生労働省への事前相談と届出で済みます。
届出の際に、国が重視するチェックポイントとして、(1)新たなアレルゲン(アレルギーの原因)や有害物質が作られていないか、(2)食品に含まれる栄養素がどう変化したか――があります。
ただし、ゲノム編集食品には、従来の育種に近いもののほか、遺伝子などの挿入・置換によって作り出されるものもあり、この場合は、遺伝子組み換え食品と同じように国が安全性を審査します。
自然志向の方には気がかりな存在に
すでに販売が可能となっているゲノム編集食品として、「GABA高蓄積トマト」「可食部増量マダイ」「高成長トラフグ」があります。
このほかにも、「高成長ヒラメ」などが開発済み。今後も新たなゲノム編集食品が登場すると予想されています。
遺伝子組み換え食品と同様に、安全性については過度な心配は不要ですが、できるだけ自然な食品を口にしたい方にとっては、ゲノム編集食品も気がかりな存在となるでしょう。


