化学肥料や農薬を使わないで生産される有機食品は、残留農薬が気になる方にとって貴重な選択肢となっています。農家にとっても輸入農産物などと差別化できたり、高値で販売できたりするメリットがあります。近年、農林水産省では国内有機農業の推進に力を入れています。本格的な取り組みは始まったばかりですが、どのような状況にあるのかを見ていきましょう。
SDGsの施策に有機農業の推進

「有機農業の推進に関する法律」では有機農業を、(1)化学的に合成された肥料・農薬を使用しない、(2)遺伝子組み換え技術を利用しない、(3)農業生産に由来する環境負荷をできる限り低減する――という方法によって行われる農業と定義しています。
化学肥料・農薬を使用して栽培したとしても、国の残留基準を順守すれば安全性に心配はありませんが、その一方で、栽培地の周辺環境に悪影響が出る恐れがあり、有機農業の重要性が再認識されています。
近年ではSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが世界的な課題となり、具体策の1つとして、有機農業の推進が注目されています。化学肥料・農薬の削減が水質汚染防止や持続可能な食料生産につながること、生物多様性に貢献できることなどが期待されています。
国内農業の活性化やSDGsへの対応を目的に、農水省は2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」に基づいて、有機農業を推進中です。2050年までに、(1)有機農業の取り組み面積を全耕地面積の25%(100万ha)に拡大、(2)化学肥料の使用量を30%低減、(3)化学農薬の使用量を50%低減――するという内容です。
取り組み面積は2011年の1万9,400haから2万6,600haに拡大
「みどりの食料システム戦略」はスタートしたばかりですが、直近の国内有機農業の状況を見ていきましょう。
まず、「みどりの食料システム戦略」について、2023年8月1日発表時点の状況を紹介します。それによると2021年の実績値は、有機農業の取り組み面積が2万6,600ha、化学肥料の使用量が約6%低減、化学農薬の使用量が約9%低減となっています。「このペースで大丈夫?」と少し不安な気持ちになりますが、今後さまざまな取り組みによって、目標に向けた動きが加速していくと予想されます。
前述のとおり、有機農業の取り組み面積は2021年時点で2万6,600ha、全耕地面積に対して占める割合は0.6%とまだわずかです。しかし、過去10年間を見ると、2011年には1万9,400haでしたが、年々増加を続けています。特に「有機JAS認証」を取得している農地の伸びが大きく、2011年の9,500haから21年には1万5,300haへと約60%増となっています。
有機JAS認証とは、JAS法に基づいて、一定の基準に沿って生産されていることを第三者機関が認証する仕組み。有機JAS認証を取得している農地(2021年度)を詳しく見ると、田が3147ha、畑が5879ha、牧草地が4038ha、茶畑が1450ha、樹園地が604haなどの内訳です。
田は福井県や宮城県、畑は北海道などで有機栽培が拡大中
農水省が2022年度に実施した調査によると、各市町村の有機農業の取り組み面積は、最も大きいのが標茶町(北海道)で418ha。次いで、大野町(福井県)、興部町(北海道)、浜中町(北海道)、釧路市(北海道)がトップ5です。15位までのうち、北海道が10件を占めています。
一方、耕地面積に対する有機農業の取り組み面積が占める割合を見ると、かなり様子が違ってきます。1位は馬路村(高知県)で、81%を占めています。馬路村はユズの名産地で、村全体で取り組む方向で進めてきた結果、地域の8割が有機農業という状況にあり、全国的に見ても突出しています。
2位以下は、西川町(山形県)の15%、柴田町(宮城県)の13%、小坂町(秋田県)の11%、江津市(島根県)の10%など。このように、上位の市町村は全国に分散しています。
また、2020年度から23年度にかけて、有機JAS認証を取得した面積が大きく伸びた都道府県を見ると、田は1位が福井県、2位が宮城県、畑は1位が北海道、2位が群馬県でした。牧草地はそれぞれ北海道、千葉県。茶畑については鹿児島県、京都府の順となっています。
地域ぐるみで取り組む「オーガニックビレッジ」、23年度は91市町村
「みどりの食料システム戦略」で掲げた目標を達成するため、農水省では有機農業に地域ぐるみで取り組む産地「オーガニックビレッジ」の創出に注力しています。
オーガニックビレッジとは、有機農産物の生産から消費まで、農家・事業者・住民を巻き込んだ地域ぐるみの取り組みを進める市町村のこと。先進的なモデル地区を創出し、全国に広げる方針です。2025年までにオーガニックビレッジを100市町村、30年までに200市町村へ拡大することを目標に掲げています。
オーガニックビレッジは2022年度に55市町村でしたが、23年度には91市町村まで増えています。
地球環境、生物多様性…多様な観点から商品選択を

国内有機農業の推進策は、今後さらに本格化すると予想されます。化学肥料・農薬を使用しない有機食品の選択は、地球環境や生物多様性に貢献できて、国内農業の活性化にも寄与できます。
農産物だけでなく、加工食品や飲料、健康食品についても、有機原料を使用したものを選択するとよいでしょう。これからの時代は、多様な観点から商品を選択することが求められそうですね。






