有機農家の野菜栽培は自然とともに育まれた『奇跡』である

スーパーで見かける有機野菜。皆さんは、どんな風に有機野菜が栽培されているかご存知でしょうか?農家は、自身の栽培方法を安易に教えません。これは、企業秘密と同じだからです。ですから、有機野菜がどんな風にできているのか?なかなか知る機会はありません。私は、県が主催した農家就農研修に参加することで、多くの農家の栽培ノウハウを教わり、独学では学べない知識を持っています。

今回は、自身も農家として栽培や販売をした経験があるからこそ、知っている有機野菜栽培についてお伝えします。これを知ると、スーパーでの買い物で有機野菜を選びたくなるかもしれません。

有機野菜をつくる前の土づくりが重要

地域にもよりますが、多くの露地(ろじ)野菜農家では、12月から翌年の2月まで土づくりの準備や苗づくりをします。この時期が重要な時期で、1年の収穫の良し悪しの8割が決まると言われているから驚きです。有機農家の主流肥料のひとつである“ぼかし肥料”は、農家ごとに少しずつ配合が違います。

ぼかしという名の肥料

有機野菜を栽培する場合は、「土」が最も重要です。野菜は、土から栄養分を吸収して育つため、土に含まれる成分や質で育ちが変わります。私が学んだ“ぼかし肥料”は、オーガニックのごまの皮と自作で収穫した米の米ぬかを、微生物発酵した自家製のものです。出来上がるまでに、1週間から3週間かかります。温度管理に失敗すると、最初からやり直しなので、繊細さも必要です。

野菜本来の力を信じて栽培する

私の知る有機農家は、必要なものだけを与える、という栽培方法を取っていました。自然と虫との共存の中で、有機野菜は育ちます。このことを知ることで、有機野菜の魅力や価値があがるのではないでしょうか。

枯れる直前まで…手を出さない我慢強さも必要

夏の日差しで枯れそうになっても、必要以上に水を与えないのです。不思議ですが、弱っていた茎や葉が、枯れても実だけはみずみずしくなっています。これは、実を守るために茎や葉を枯らして実に栄養を送っているからなのです。見守ることで、必要なものや必要なタイミングがいつなのかを見極めるのが有機栽培では重要です。しかし、いつも正解とは限らず、間違えれば作物が収穫できません。

虫たちとの共存が畑を育て有機野菜をつくる

作物を枯らすアブラムシは、テントウムシが食べてくれます。また、卵を産み付けるチョウチョは蜘蛛が捕まえてくれます。その他にも、カマキリなども畑の作物を守ってくれる虫です。それでも、作物が病気にかかってしまった場合は、一時的に人の手をかけることがあります。

例えば、葉っぱの表面に白いカビが生える病気「うどんこ病」には、酢を水で薄めたものを振りかけることもあります。また、アブラムシが大量発生してしまった時は、牛乳を利用します。

昔の農家は自然と一緒に作物を栽培していた

農家は、昔から鳥や花に農作業のタイミングを教えてもらっていたってご存知ですか?

春は桜とカッコウ、秋はトンボ…自然が教えてくれるものの大切さ

農家に伝わる言葉に「カッコウが鳴いたら種を蒔(ま)け」というものがあります。近年は、天気予報などを利用して農業することも多くなりました。昔は、そんなことはできません。自然の中で、その先の気温の変化や天気の流れを読む必要がありました。現在でも「桜のつぼみが大きくなったら、苗を植える」という有機農家があります。これは、桜が咲くタイミングで気温が上がるためです。他にも梅の時期にはこれをする、トンボが飛び始めたらこれをする、など自然界にあるものを基準に農作業の準備や作業をしています。

異常気象で…災害と自然もどんどん変化し農業も大変に

現在、放送中の大河ドラマ「青天を衝け」主人公の渋沢栄一は、藍玉(あいだま)作りを営む農家です。ドラマで、藍を育てる苦労が描かれたシーンがあります。当時は、農薬や化学肥料などもない時代です。虫や病気にかかり不作になることもあり、農家は一喜一憂することも多い。ドラマを見ながら、有機野菜栽培に似ているなぁと…つい思ってしまいました。現在は、土を保温するためのマルチングなど、農具が充実しています。ただ、有機野菜栽培にとって、昔と変わらないのは除草剤や化学肥料を使わないという点です。つまり、草刈や病気に対する管理をこまめに行う必要があり、人手と手間がかかるのは今も同じなのです。

有機JASマークの意味

スーパーで陳列された野菜だけでは、生産者の想いや考えまでは伝わりません。有機野菜は、種まきの2年以上前から農薬や化学肥料を使用していない土地で栽培された野菜のことを指します。

畑の管理や費用がかかる「有機JASマーク」を取得する農家

スーパーで野菜を見ると、ある有機農家の「絶対に身体に良くないことは譲れない。虫との共存共栄をめざしている。」という言葉を思い出します。有機JASマークは、他の野菜との差別化の印です。マークを取得するには、講習受講義務や厳しい審査があり、認定されたあとも調査が続きます。一時的なことや生半可なことでは、このマークを取得できないのです。

有機野菜の価値

有機野菜栽培では、土づくりや苗づくりから有機的なものを使うことに、こだわっています。また自然や虫との共存が、基本になっているのが有機野菜栽培です。収穫した作物が不格好なのは、虫や厳しい気候と戦った証。スーパーに、有機野菜があるだけで「奇跡」だといえます。

ABOUTこの記事をかいた人

Webフリーライター。「2.5次元」に沼っている自由人。美容・ハーブなどの執筆も手がける、有機野菜やオーガニック野菜好きライターです。農家になりたくて県主催の農業研修を受けたほど。自ら畑を借り、有機栽培・販売を経験。多くの農家との交流から学んだこと、自然の中で育つ愛らしい野菜たちのことを多くの方に伝えます。